フォントの DNA を生み出す
小文字の「o」と「n」の作業で、納得のいくしっかりとしたデザインとスペース設定が完了したら、次に行なうことは、他の多くの文字を作成するのに役立つ、フォントの構造的な特徴を持った基礎となる文字を増やすことです。
できるだけ早く、急いで、すべての文字でフォントを埋めたいという誘惑に駆られるかもしれません ― でも、その衝動に抗ってください。
「o」と「n」はフォント・デザインの基礎への優れた出発点になりますが、残りの部分を構築しなければなりません。それを行なう前に字種を急速に拡大すると、プロジェクト全体の管理が難しくなり、必要以上に時間がかかります。
デザイン作業の基礎固めには他に何が必要なのでしょうか? まず、「n」と「o」とで何が得られたかを見てみましょう。
小文字「o」は特に基本的なスペースを調整するのに役立ちますが、他の文字 ―「b」や「d」でさえも ― のデザインには役に立ちません。
一方、小文字の「n」の方は非常に優秀で、「m」や「h」、「u」を作成するのに役立ちます。基礎とする文字の選択に際して考慮すべき別の要因は、どれほど頻繁にその文字が用いられるか、ということです。多く用いられる文字は、表示テスト用の単語を作成するのも簡単です。文字の中には、ほぼこの特別な理由のためだけに選ばれるものもあります。
あなたが選ぶ文字が、ここで提示された文字である必要はありませんが、いま述べた特徴だけは備えているべきです。という訳で、たとえば、手始めに「a d h e s i o n」で始めて見るのはどうでしょう。この文字セットは英国レディング大学の「書体デザイン修士コース」で使われているものです。
別の案としては「v i d e o s p a n」もあります。これは、鋳造会社の Type Together 社が自社のプロジェクトを開始した際や、書体デザイン・ワークショップで使用するものです。どちらにも十分に有意義な DNA が含まれており、文字数が少ないため、全体的な変更が必要になったとしても容易に対処できます。
上記二つの文字セットのどちらかを利用するのが最も簡単ですが、自分で文字セットを作成することも可能です。
どのような文字を「n」と「o」に付け加えたいかを考えてみましょう。以下の選択肢を参考にしてください。
- 「a」 — 文字「a」も最初の文字候補としては最も一般的なものです。「a」はまた、「s」の終端部がどのようになるかを予測するのにも役立ちます。
- 「d」 — 「d」の形状は、「b」、「p」、「q」のデザインに関して非常に多くのことを教えてくれます。
- 「e」 — 英語や多くの他の言語では、「e」は特によく目にする文字です — このため、特に価値があります。「e」の形状を使用して「c」をデザインすることもできます。
- 「h」 — 「h」は「n」からかなり素早く作成できる一方で、アセンダー を加えることで、テストしたい文字の質感(テクスチャ)に多様性を提供します。
- 「i」 — 「e」と同様に、文字「i」も非常に一般的で、「j」の字面について少し知ることができるという利点があります。「i」の形も部分的に「n」の形から推測できます。
- 「s」 — 文字「s」は、テストする文字の質感(テクスチャ)に視覚的な多様性を加えるため、早い段階で描くのに適しています。 「s」はまた、きちんと描くことが非常に難しく、早くから取り掛かかれば、プロジェクトの終了までにはきちんと描くのに十分な時間を費やせることでしょう。「s」の終端部は、「a」、「c」、「f」、「j」、「y」の終端部の形がどのようになるかを予測するのに役立つかもしれません。
- 「v」 — 文字「v」は「y」や「w」がどのような形になるのか予測するのに役立ちます。
これらの文字のデザインが完了したら、これらの文字を使ってできる単語の見えかたをテストし、時間をかけて各文字を洗練して行きましょう。「n」と「o」のときに述べたように、文字間のスペースとスペースに対するカウンター部の関係に多くの注意を払いましょう。
アセンダーとディセンダーの高さをどのように決めるのか、については、この TypeDrawers の記事 をご一読ください。
テスト用テキストを作成する
ネットワーク上にはテスト用のダミー・テキストを素早く作成できる多くの情報源があります:
- LibreText はフリー・ソフトウェアのサイトです。
- Adhesion Text は、Miguel Sousa 氏による、このような情報源の最初のものです。
- JAF Generator はフォント・デザイン会社 Just Another Foundry によるものです。
- Typableは、Ondrej Job 氏作成のサイトです《※リンク切れ?》。
実際のテキストを利用する
こうした ダミー・テキスト は、ある意味、「無意味な」テキストです。実際には、全く、読むことができません。
しかしながら、十個程度の文字が完成していれば、実在語のテキストを作成して、実際に読書するような体験ができます。このように、字体のデザインがどのような働きをしているのかを身をもって体感することはデザイン作業に必要不可欠なことなので、早くこの段階に到達することが望ましいのです。
ただし、見慣れることには注意してください。同じ実在語のテキストを繰り返し書体のテストに用いると、次第に見慣れてしまい、書体の生み出す効果を感知する能力が失なわれてしまいます。
全アルファベットの文字が完成したら、最新のテキストを確保してテストするために、オペレーティング・システムのフォント、電子メール・アプリケーション、または Web ブラウザのデフォルト・フォントを自分のフォントに設定できます。
この件については TypeDrawers フォーラムのこの記事「On The Use of Blind Texts」(2015.03)を参照してください。